S玩具店(東京都)

トップに戻る
最終更新:2022年12月21日

ほんのちょっとの間だけおもちゃ屋を巡った記憶を頼りに、昔のホームページをオマージュして書いていくプラレール発掘紀行シリーズ。正直言うとそろそろネタ切れだぜ。あと3店舗分くらいはあるから楽しみにしててくれよな。

その店は、都内を走る私鉄のちょっと大きな駅から歩いて数分というところにある。駅近くだがメインストリートからは外れ、通勤通学時間帯以外は人通りもまばらな、寂れつつある商店街といった感じの場所だ。
商店街の中でもかなり古い、住居兼店舗の典型的な看板建築が今回の舞台となるおもちゃ屋だ。戦後すぐか、戦前からあるかもしれない。結構オンボロな建物だった。
そうだ、昔小さい頃にこの店に来た覚えがある。でも、いい思い出とはならずに出てきた。
というのも、棚に並んでいたプラレールを手に取って眺めていたら、店番をしていたばあさんに「買わないなら触るな!」と怒鳴られたからだ。今からしてみるとおもちゃ屋のくせに小さい子供相手に厳しすぎやしねぇかと思うが、当時は怖くなってそそくさと出てしまった覚えがある。

「入ろうかなぁ...」

どうせ店のばあさんはそんな出来事覚えてないだろう。おもちゃ屋巡りを始めた時に真っ先に行こうと思った店だが、この一件があるので後回しにしていた。
しかし、俺はいまこの店の前にいる。覚悟を決めてプラレールを漁りに来たからだ。
コンクリートで固められた埃っぽい床に足を踏み入れると、前回訪れた時とはずいぶん様子が変わっている店内の様子が目に飛び込んできた。まるでおもちゃがないのだ。
振り返って入り口の脇を見ると、シャボン玉がいっぱいぶら下げられていた。
天井いっぱいまで設けられた棚の上の方にあるものはそもそも取り出す人もいないだろうからぎっしりと詰め込まれたままだが、手が届く範囲はもうガラガラだ。あの時怒鳴られたプラレールの棚があったところには段ボールがちょこんと置かれている。
「プラレールはないのか?」と思いながら店内を見渡すと、背の低い木のテーブルの上に現行品が3個だけ置かれているのみだった。
ふと前を見ると、あのばあさんがテレビを見ながらボケーッとしている。俺が入ってきたことに気づいてるのかな。
先の段ボールは、店の角にあった。元々プラレールが並んでいたところだ。もしかするとプラレールの段ボールかもしれないと淡い期待を抱きながら近づいてみると、思わず声が出そうになった。
分厚く埃をかぶっていて開けるのも躊躇うほど汚かったが、確かに極太マッキーで「トミー プラレール」と雑に書かれていた。
店頭に並べる前の在庫だろうか...?それにしては3両単品が入る幅の箱ではない。レールが入っているのかな?
無許可で開けるとまたあの時みたいに怒鳴られそうだ。恐る恐るばあさんに聞いてみた。
「あの、この箱開けてみてもいいですか?」
するとばあさん、「いいけどね、なんも入ってないよ」と言う。
なんだ、開けていいのか。じゃあ遠慮なく開けさせてもらうぜ。なんも入ってなくても結構だ。埃をブワッサと撒き散らしながら箱を開けると、確かに何も入っていない... いや、何かが3つある。
取り出そうとしたタイミングで、ばあさんが「だから何もないって」と言う。自分の店をいじられるのがイヤなタイプの人なんだろうな、と思いながらブツを取り出す。

ちゃんとプラレールだったぜ。こいつだ!


ほ、ほ、ほどうきょうじゃねえかっ!!!!!!それも一つじゃない。3つある!!
ほどうきょうはメリーゴーランドマーク時代(2代目タグ)にだけ生産された超希少情景部品だぞ!それが3つも出てくるなんて...
半ば興奮気味で会計しにレジに持っていくと、ばあさんは「ふん」と言いながらも、埃を被ったほどうきょうを丁寧に濡れ雑巾で拭いてくれた。ツンデレばあさんなのかもしれない。

車両どころかレールすらない店だったが、予想の斜め上をいく収穫を得ることができた。なんだよ、結構イカす店じゃねえか。
でも、あんな古めかしい段ボールを空にしてしまったんだ。次来てもどうせ何もないだろう。そう勝手に思い込んで、この時を最後に5年間行かない期間が続いた。


ほどうきょうの発掘から5年、プラレール仲間と会う機会があり、ふと古いプラレールの話題になった。

「5年前にほどうきょうのデッドストックを見つけた事があってさ」「その店まだあるの?」「まだあるよ」「あるなら行ってみたら?」

そんな雑談を機に、そうだな、久々に行ってみるかとなった。店が健在なことは何度も確認しているが、店外から見てもプラレールは「単品が3つ」置いてあることに変わりはなかった。もう古いものはないんだろうな、と思って完全にスルーしていたのだ。
よっしゃ!ダメ元で行ってみて何もなければ現行品を買って出りゃいいんだもんな!

5年ぶりに店に入ってみると、更におもちゃの数が減っていた。もう最低限のものしか売らないんだろう。それに前回は気づかなかったが、女児向けの比率が高い。男児向けはほんとにちょっとしかない。
どちらかと言えばシャボン玉やバドミントン、ボールみたいな屋外向け玩具の方が多い。あんまり期待するのはよくないのかもな。
やっぱり、店内を見回してもプラレールは「単品が3つ」テーブルの上に置かれているだけだった。ま、しょうがないか。この「ライト付700系新幹線」でも買うか...と手を伸ばそうとした時、視界の端に入ったシャボン玉と共に、えらく古そうなおもちゃが見えた。
言ってなかったと思うが、俺はレトロオタクでもある。プラレールに限らず、古いものには心がトキめくものだ。さて、この古いものはなんだろなと...

ってオイ、プラレールじゃねえか!!!!!!!!!!!

しかもまたメリーゴーランドマーク時代の情景部品だ!!!!!!!!!2010年代も半ばの都内だぞ!!!
最近生産されたであろう玩具に混じってこのタグがぶら下がっている光景を想像してみてほしい。逆に目立ちすぎていた。


どうなってんだこの店は... これもまたメリーゴーランドマーク時代にしか生産されていない希少情景部品しんごうきだ!
しかも1つじゃない、2つもぶら下がってやがる!もちろん迷わず買ったぞ。
そういえば、店番がじいさんになっている。あのばあさんはどうしたんだろう。もう結構な年に見えたからな。

あれからちょくちょく店を覗いているが、しんごうきを手に入れたあの日からよほど変わっていない様子だった。
プラレールも単品が3つテーブルの上に置かれているのはもうずっと変わらない。見るたびにちゃんと新製品が1つは置かれているのが気になるが。
倉庫にはまだ古いプラレールが眠ってるんだろうか。まだ健在のS玩具店、潰れてしまう前にもう一度訪れてプラレールを買ってみようと思う。


 › 
 › 
S玩具店(東京都)