浅草。戦前からの一大観光地だ。説明不要だな。雷門から伸びる仲見世商店街と交差するように、近代的なアーケード街である新仲見世商店街がある。
東武浅草駅に面するアーケードの入り口から仲見世通り方面、右手にそのおもちゃ屋はあった。「おもちゃのサワダ」という、東京の一大観光地に店を構えるにしては全く観光客に媚びない(ように見えた)、昔ながらのおもちゃ屋といった佇まいだった。
2010年の夏、友人と建設中のスカイツリーを見に行ったあとに浅草を訪れていた館長は、当てもなく二人でその辺をフラついていた。そして「おもちゃのサワダ」に出会った。店の入り口にはプラレールのレイアウトがディスプレイされており、微笑ましいことに「ぼくがうんてんしゅ 赤外線コントロール 未来のぞみGO!」の300系が置かれていた。というかレールから外れて横転していた。コントローラーがないと動かないので、本当にただのディスプレイである。
友人に断りを入れてから店に入る。さてプラレールはないかな...と見てみると、さすが観光地のおもちゃ屋だ。壁際の棚にかなりの範囲を占めて現行品が所狭しと並んでいる。まぁしかし、期待したような古い製品は何一つなかった。しっかりと現在の玩具を仕入れているのだろう。ただ、プラレール以外はそれなりに古いものが多々あった。と言っても最も古くて90年代頃の製品だったと思う。
店の奥の方に目をやる。突き当たりは人形やなりきりセットが並んでいる女児向けコーナーで、鍵付きのショーケースとなっている。欲しければすぐ脇のレジにいる店の人にお願いして開けてもらうってこったな。
まぁ、一通り店内を見たとは言え、これと言って欲しいものはないな。観光客の冷やかしみたいになっちまってすまねえ...と思いながら、乱雑にモノが詰め込まれたショーケース下段を見て本当に大きな声が出そうになった。
車庫だ。車庫がある。現行品ではない。古い。ずいぶん古い。本当に古い。タグには「プラスチック汽車レールセット部品」と印刷されていた。そしてそれが、3つある。
「すみません、これください」とお願いし、ショーケースを開けてもらう。
「こんな古いのものでいいの?」と多少困惑されながら取り出してもらうと、さすがショーケースに入っているだけあって美品そのものだった。すまん、古いものがいいんだ俺は。
支払いを済ませ、ウッキウキで店を出る。友人に「浅草に遊びに来てまでそんなん買ったのかよ」と言われた。ぐうの音も出なかった。ちょきの音なら出たかもしれない。
かくして、プラレールハンターなら真っ先に潰していくであろう、東京23区内のおもちゃ屋でプラスチック汽車時代の製品をゲットしたわけだ。この体験があったもんだから、あれから浅草に行くたびにサワダを覗いてみたが、流石に古い製品はあれっきりだったようだ。
時は流れ、2021年11月15日。「おもちゃのサワダ」は閉店してしまった。些細ながらも強烈な印象を残してくれた店だった。
2019年に訪れたときの店頭レイアウトの様子だ。相変わらず動かない300系が鎮座し、当時の新製品に行手を阻まれていた。くぉ〜、いま見るとくまモン銀座線もリバティもアチィな!あ、浅草だからこの2本がプッシュされてるのか。なるほど、撮ったときはなんとも思わなかった。アホである。