プラレール65年以上の歴史において、関連商品というのは数多あります。本家プラレールから分岐したものはもちろん、プラレールの祖先とされる「KEYSTONE "TOT" RAILROAD」を源流とした、規格が近いだけで全く別メーカーの別玩具に発展しているものもあります。その他、雑貨や食品、カプセルプラレールやミニミニプラレールなどの派生商品もありますが、広げるとキリがないのでここでは割愛します。
そんなプラレールの関連商品ですが、世の中には何故かプラレールとは全く関係がないのにプラレールとして扱われていた商品が存在します。それが、トミーが1960年代に発売した「羽田線モノレール」です。商品名には「セット」が付きませんが、ファンの間では便宜上「羽田線モノレールセット」と呼ばれています。
東京モノレール羽田線はその名の通り、東京・浜松町から羽田空港を結ぶために建設された日立アルウェーグ式のモノレール路線で、1964年9月17日に開業しました。当初は中間駅の無い完全直通タイプの路線でしたが、後に大井競馬場前駅などの中間駅が開業、1993年に終点の初代羽田駅を廃止して軌道を移設、羽田空港駅(現・羽田空港第1ターミナル駅)まで延伸、2004年には更に羽田空港第2ビル駅(現・羽田空港第2ターミナル駅)まで延伸するなど、60年以上の歴史の中で変遷を繰り返してきました。車両も時代によって大きく変わり、開業当初は2軸台車で11m級の車両だったものも、今ではボギー台車の15〜16m級車体となり、輸送力も格段に向上しました。
開業当初の車両構成は少々ややこしく、丸妻で貫通路を持つ先頭車100形、中間車の200形、100形を流線型にした300形、100形の運転台部分を客室にして入替用の簡易運転台を装備した350形の4形式があり、以下のような組み合わせがあったようです。
100 - 200 - 100 (3両編成)
300 - 200 - 100 or 100 - 200 - 300 (3両編成)
300 - 200 - 350 + 350 - 200 - 300 (6両編成)
このように、3両編成1本が基本単位となっていました。運用は柔軟に組まれていたらしく、3両単独はもちろん、100形同士向かい合う6両編成もあれば、基本の6両を分割して100形と350形が連結する組成になった6両編成、試運転では9両編成を組んだこともあったようです。300形は基本的に6両編成用の先頭車として用意されており、非常口はありますが貫通路としては機能していなかったため、300形同士の連結や、300 - 200 - 300の3両編成といったものは無かったと思われますが、詳細は不明です。
さて、「羽田線モノレールセット」の話に戻ります。開業後の1964年10月に発売。定価は1470円でした。
箱はフルカラー印刷のイラストメインです。羽田空港を背景に、300形が先頭の3両編成が真新しいレールの上を疾走し、その上には1964年5月にデビューした全日空の新鋭機、ボーイング727型が飛んでいます。そして海外と日本を結ぶ東京モノレールだからこそという感じで白人の兄妹が描かれているのが微笑ましいです。
緻密に描かれたイラストですが、よく見ると前面の連結器周りが少しおかしいです。これと言った資料がないまま描いてしまったのでしょうか。
箱を開けるとこんな感じ。車両1本、曲線レールが8本、直線レールが2本、通常の橋脚が10本、逆転用ゲート付きの橋脚が2本、そして橋脚の台座が10個という内容です。この個体では台座が一つ欠品となっています。
車両は車体がブリキ製、足回りはプラスチック製です。当時のブリキ鉄道玩具に倣い、窓には乗客の姿も描かれていますが、ハイウェイバスのように一人ずつ表情を付けているわけではなく、シルエットで表現されています。動力は中間車に積まれており、単1形乾電池2本を使用するというなかなかの高コスト仕様です。先頭・後尾が電池ボックスとなっています。
車両近影。ライトには黄色いクリアパーツが使われていますが、光りません。箱イラストでは変に描かれていた連結器周りも、こちらは正確に再現されています。
動力車である中間車。印刷表現であることを活かし、塗装はもちろん、窓枠の銀色や車体肩・側面のルーバー、東京モノレールのロゴとHITACI-ALWEGのロゴ、車側灯までもが再現され、なかなかの高クオリティです。
上写真の反対側側面を斜め上から。屋根上の赤いスイッチが電源、白いスイッチが逆転スイッチです。つまり、往復プラレールよろしく方向転換が可能となっています。屋根の赤いラインも丁寧に再現されており、全体的な見た目を損なわないために電源スイッチがラインに合わせた赤色になっているのが特徴的です。
なお、生産時期によりスイッチの構成に2パターン存在しており、この個体のように電源用と逆転用がそれぞれ独立しているものと、下に掲載している電源用・逆転用が一体になったものがあります。
先頭車。300形の流線型が上手く再現されています。
動力台車。実車同様に2軸です。
先頭の台車はレールを掴む縦のタイヤと、先頭部下にあるロッキード式みたいな5軸構成。
こちらは上の写真の個体とは異なり、電源と逆転のスイッチが一体型となっているタイプです。
先頭・後尾屋根の銀色のボタンは電池カバーの固定用。これを引くと蓋がバネの力でパッカーンと開きます。
レールに乗せた状態。
ちなみにこの羽田線、単1電池を使うこともあってか、走らせるとものすごいスピードが出ます。
タイトルにも、冒頭にもあるように、この「羽田線モノレール」はプラレール製品ではありません。では何故プラレーラー内での知名度が高いのか、そして何故プラレール資料館で取り上げるのか。それは1998年刊行の書籍「プラレールのすべて」で紹介されたことを発端とします。
「プラレールにモノレールがあった!?」と言った形で、コラムとして取り上げられて知名度が上がったこの製品。結局後々プラレールではないことが判明しました(そもそもブリキ製です)が、往年のファンやプラレール周辺に詳しい方には未だ根強い人気を誇り、プラレールと同列に扱われることが多いという経緯を持つ、変わったおもちゃです。
プラレールとしては長い間モノレールの製品はありませんでしたが、皆さんご存知のように、2000年代に入ってからついにモノレールが登場。懸垂式の製品に始まり、のちにディズニーリゾートラインで跨座式も登場し、2013年にはイベント限定品として「東京モノレール2000形セット」が発売され、名実ともにプラレールとしての東京モノレールが登場しています。
プラレールと比べても、そのサイズ差は歴然。結構な大型ですが、それでもプラレールと組み合わせるとすんなり馴染むのが面白いと思います。
同世代の製品ながら、デフォルメの手法に大きな差がある「羽田線モノレール」「プラスチック夢の超特急」「ハイウェイバス」の1960年代トミー製品組。プラレールだけを見ると「昔のおもちゃはいい加減だった」と思う方もいるかもしれませんが、当時のトミーがブリキに強く、プラスチックではまだ試行錯誤を行っていたことが伺える一品です。