秘密指令E2号

企画特別展トップに戻る
◀︎第4回第6回▶︎
公開:2022年11月25日
最終更新:2023年1月30日

「18年ぶりだな」
「ああ、間違いない…」

「クリアはやてだ」



急な入電により、喫茶店で暇潰しをしていた館長が資料館本部に呼び戻される。自家用の黄色いバスに乗り込み、本部へ向かう。

▲プラレール資料館の本部はターミナルステーションの地下にあるぞ!

「何があった?」「あっ、館長!これを見てください!」
本部のモニターに黄色い競売サイトが映し出される。

「目標物は依然健在。現在価格は沈黙を守っています」「落札額、予測不能」「目標の入手を最優先。秘密指令E2号を発令します」

本部に招集ベルが鳴り響く。

▲説明しよう!プラレール資料館の本部地下には「全自動ふみきり」が設置されていて、所員招集の時にどこからともなくよびりん・ぴんぽん号が現れベルを鳴らすのだ!5秒くらいで鳴り終わるぞ!

初夏、未知のプラレールが出品され、アッと言う間にとんでもない額に跳ね上がった。
比較的数があると思われる40年ほどの前の製品でも、最近は相場が高騰している。
25年ほど前に始まったプラレールの収集という文化は、瞬く間に市場から古い製品の在庫を一掃する結果を残した。時を同じくして出回り始めた非売品の類は、流通数・流通経路ともに限定されており、ファンとしては見逃せない注目の的であった。

その非売品の中でも、かなり珍しいものがネット上に姿を現した。
「現在、秘密指令E2号が発令されています。研究チームは可及的速やかに第一会議室にお集まりください」

画面を見て、私は凍りついた。万が一のために用意していた秘密指令E2号の発令がかかる。当分使うことはないと思っていたのだが、これが最初で最後の発令だ。

「いけますかね?」「さぁね…」
第一会議室。資料館に携わる面々が画面を見つめ、目標物を改めて確認する。それは紛れもなくヤツさ。

卓上の電話が鳴った。「館長、電話が入っています。メフィラスさんからです」
メフィラス氏。なぜか外星人の名前を名乗る謎の人物だ。

『ご無沙汰です。紹介したい人がいるので代わります』

また新たなコレクターだろうか?電話に出た人は、抑揚のない淡々とした口調で名乗った。

『私の名はザラブ。メフィラスと同じシュールレアリズム市から来たプラレーラーだ。今回は私が支援する』

また外星人の名前を名乗る人だ。プラレーラーには地球外出身の人が紛れ込んでいるのだろうか?

『裁量は任せる。金は任せろ』

ザラブ氏はそう言うと電話を切った。

・・
・・・・
・・・・・・

はしれ!プラレールはやて!特別限定版クリア仕様セット
過去に紹介されたことのある文献から、通称「クリアはやて」と呼ばれる第一級品のレアプラレールだ。
2003年年末に行われた、東北新幹線延伸区間開業&はやてデビュー1周年記念のキャンペーン「あったか北東北とっておきプレゼント」のEコースに応募すると抽選で貰えた。応募のチャンスは2度あり、各回120名ずつ、2004年内に計240名に行き渡った。

あれから約18年、ごく稀に出回るようになったが、それでもそもそもの数が少ないので世に出てくるのは4〜5年に一度あるかないか程度。今回、その”一度”がやってきたのだ。

終了日前日に作戦会議が行われた。

「縮退レーダーによる計測値は、目標の絶対数が少ないため正確な相場が把握できず、推定でもホニャララ万円は超えており、最終到達額は現在のところ不明です」 「ホニャララ万円か…」「えー、クリアC62が[禁則事項です]円だから…」
「入手できた場合は走らせますか?」「いや流石にそれは…」「しかし箱から出さない事には…おもちゃですし…」

翌日、皆が見守る中とうとうその時がやってきた。

「時間だ。ツーワンセブンに電話しろ」「はい」

「午後10時ちょうどをお知らせします。ピ ピ ピ ポーン」

「時間です」

本当の闘いは終了間際から始まる。みな固唾を吞んで画面を見守る。

入札、高値更新、入札、高値更新、入札、高値更新、芸術、爆発、入札、高値更新…


気づけば、私はザラブ氏に電話をかけていた。

「許してください」『許す』

後ろでメフィラス氏が大笑いしている。館長は燃え尽きた。

「秘密指令E2号を解除」
闘いは終わった・・・。

それではお見せしよう。これが「特別限定版クリア仕様セット」の姿だ!

まずお目見えするのは、少し頑丈な補強用の箱。本体はこの中に入っている。

箱のスタイルは当時の連結セットと同様だが、無地の白い箱となっている
補強用の外箱も同様に何も印刷されていない白い箱だ。

商品名は箱の裏に貼られている。前面に何も装飾がないのが特別感を出してくれる逸品と言えよう。「非売品」の文字が誇らしげである。

中身を並べた。通常使用の「はやて」と、車体の白い部分をクリアとした「はやて」の2編成が入っている。ちなみに内箱は連結セットなどと同様のものが使われている。
クリア仕様はもちろんだが、通常の方も連結仕様ではないので結構珍しい。
非連結仕様のものは2002年11月発売の「東日本スペシャルセット」と、2002年12月1日発売の「E2系1000番代新幹線 はやて」、トイザらス限定で発売された「新幹線自動のりかえ駅セットDX」「はやてクルリ鉄橋往復セット」、そして2010年に発売された「E2系はやて高架レールセット」でも入手可能だが、どれも現在ではかなりの入手困難品だ。

2004年頃のABS樹脂は変色しやすい事で知られている。さすがに18年の時を経ると配布時と同様のまっさらなクリア具合は維持できなかったようで、やはり変色が認められる。非売品のレア物とはいえ、ABS樹脂の宿命。これは受け入れるしかない。

青とピンクは通常品同様の塗装となり、全体をクリアとしないのが良い。黒い前面窓が落ち着いた印象を与える。
屋根の滑り止めモールドはきっちりグレー塗装で処理され、全体を引き締めている。
通常品では屋根裏に貼られている製造年月を示すシールは、塗装面の裏に貼られて目立たないように配慮がされている。A04、A = 1月、04 = 2004年なので、クリアはやての生産は2004年1月に行われたらしい。

平成ヒトケタ生まれの世代としては、クリア成型もとい「スケルトン」にはなんとなくワクワクを感じるものだ。

説明書の表記ももちろん「特別限定版クリア仕様セット」。通常品の写真が使われているのがちょっと惜しい。ここはクリア仕様で新たに写真を撮ってほしかったな。

非売品があるとなると通常品と並べたくなるのがコレクターのサガ。「はやて&つばさダブルセット」の連結仕様のものと並べてみた。 双方で大きな違いがあるというわけではないが、通常品と非売品というだけでちょっとしたワクワク感があるぞ。
不思議なのが、このクリアセットの通常版はやては後尾車だけが若干変色しているということだ。ほぼ同時期に作られた連結仕様の方は変色していないが、非連結仕様の後尾車だけが黄ばむというのが気になる。 先頭・中間は連結仕様と同じ生産ラインで、後尾車だけは別のラインで違う配合のABSを使ったということなのだろうか?モノがモノだけに変色の原因となる紫外線に長く晒されたとは考えにくく、謎である。

そうそう、クリア成型の新幹線でこれまたレアものと言えば「イーストアイ」のクリア中間車カバーだ。イーストアイが検査で走ることができない時は、実車では「あさま色」のN21編成が代理で検測車を挟んで走っていた。
どっちも揃ったとなると、やるしかない。
2015年まで見ることが出来たイーストアイ中間車組み込み編成のE2系。しかもクリア仕様!
「はやて色」のE2系に挟まれた実績はないが、それっぽく見えるだけでいいのだ。おもちゃなのだから。
こんなことが出来るのはプラレール資料館だけだぞ(たぶん)
ただやはり、変色していないイーストアイと繋がるとはやての変色具合が目立ってしまう。製造当時はこんな綺麗な透明車体だったんだなと思うと、少し残念だ。

クリア仕様のプラレールは、このように長らく限定品向けの少数生産品でしか存在しなかったが、最近になって「テコロでチャージ!」シリーズで通常品に昇格した。
若干入手難易度の下がったクリア仕様のプラレールだが、既に第一線を退いているE2系のクリア仕様が今後出ることはないと思われる。
プラレール史に残る製品の一つを資料館に迎え入れられたことは、2022年最大の出来事としてもいいだろう。

そういえば、箱から出したものの走らせるのはちょっと躊躇してしまった。
「はしれ!」と名乗っているのに、少し申し訳ない。

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
第5回公開に合わせて、車両セットの並びに非売品のページを作成しました。合わせてご覧ください。
残す激レア非売品は、クリアC62や小田急電鉄が少数生産したらしい3000形の後尾車と言ったところでしょう。お持ちの方がいらっしゃいましたら、ぜひ連絡をお待ちしております。

今回の記事作成、および収蔵するにあたり協力して頂いたザラブ氏、メフィラス氏、F氏、T氏に感謝致します。ありがとうございました。

令和4年11月吉日
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
[2022年12月6日 追記]
クリアC62を収蔵しました。まさかこんな短期間で幻の非売品2つが揃う事になるとは思いませんでした...

 › 
 › 
秘密指令E2号