福岡地下鉄電車

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◀︎第9回
公開:2023年11月9日
最終更新:2023年11月30日

「定期設備点検進行中。収蔵庫内、温度・湿度、共に正常値範囲内。問題なし」
「各展示室の点検作業は本日18時までに完了の予定。進捗率、63%」
「狭山支部より連絡。動輪ゴム交換及びモーターボックスのレストア対象車の修繕完了」

資料館本部。大型案件が過ぎ去り、館内にはいつもの日常が戻っていた。
「新発見や未収蔵品の回収がないと退屈ですね」「退屈も大事だ。平和が一番いいよ」
時計が昼時を指している。
昼食のために館長が席を立った時、普段はほとんど何も表示されていないBoxType5検知器モニターが目標を捕捉したとの表示が出た。

「EC05、EC14、EC15、EC16... おお、EC18もあるのか。珍しいな」
珍しいと言えば珍しいが、どれも収蔵済み。見たことがあるモノばかりだ。
「まぁいい。対処不要だ。監視だけ頼むよ」「了解」
所員にそう伝え、扉を開けようとした時だった。
「か、館長」所員が声を上げた。
「どうした?」
Fが出ています。なんですかね、これ」「F?」
モニターを見ると、EC18の下に「F」の一文字が表示されていた。
「気になるな。解析できるか?」「やってみます。少し時間がかかるかもしれませんが」

初めて目にする表示に困惑する館長と所員。

「解析結果が出ました。K08です」
「K08?」
「解析不能を示すエラーコードです」

ここで事態を察した。

「まずいな。分かった。少し時間をくれ」

館長は一度電話室に入り、どこかへ電話をかける。

『資料館本部より各支部長宛。K08の出現を確認。YP警報発令。非常時対応をお願いします。時刻、日本時間12時01分』

副司令と主要な所員を呼び、少し会話を交わした後、改めて全館に通達する。
「総員、第二種警戒態勢。所員を緊急招集。招集完了次第、第一種警戒態勢に移行。資対天迎撃戦用意」
「了解。全館に連絡。定期設備点検を中断。総員、各収蔵庫を施錠後、可及的速やかに本部に集合してください」「本館と各展示室及び収蔵庫間の通路を一時封鎖します。所員は第113経路にて移動してください」「第一から第三収蔵庫、施錠確認。第二、第四展示室、施錠確認」「館内全回線を非常通信に切り替えました」「第一、第三展示室の施錠をお願いします」「東通路の封鎖を確認。南通路の封鎖を確認」「現在、本館と別館を結ぶ動く歩道は全て一方通行となっております」「迎撃システム作動開始」

YP警報が鳴り始め、よびりん・ぴんぽん号が出てきては全自動ふみきりのベルを鳴らして帰っていく。



「館長。パターンシルバーが出ました。間違いありません」
「第一種警戒態勢ですか。ただ買い物するだけなのに、いつも大袈裟ですよねこの施設」
「うるさいわ。他のEC箱は陽動だぞ」
再び慌ただしくなる資料館本部。所員の肉声とMARIのアナウンスが入り混じる。
「ザラブとメフィラスは?」「ザラブ氏は通常回線が音信不通。現在ダイレクトラインで呼び出し中です。メフィラス氏は向かっているそうです」

「推定監視数、60超。現在価格、2300。最終落札価格、予測不能」「再分析完了。過去データとの一致率、99.89%」

第一会議室。館内にいた者に加え、緊急招集された所員、メフィラス氏、そして遅れて来たザラブ氏も揃い、名ばかり作戦会議が始まった。
「今回はマジモンである可能性が高いと思われます」「MARIに過去のデータを遡らせたところ、一つは3桁万円で出現しているようです。その後の動向は不明。もう一つは10万円で出現し、すぐに確保されています。確認できる範囲では今回が三例目です」
「終了時予測はどう出てる?」「有効データが不足しているため、MARIが回答不能を示しています。立川のMARI2号も同じ結果を出しています」「今回の迎撃に対し、MARI-1および2は賛成、MARI-3は条件付きで賛成を提示しています」

会議室にどよめきが起きる。
「この前に続いてまたか」「そもそもの現存例が少ないのでしょう?先日のように済むとは思えませんが」「ここで諦めたら資料館の名が廃るぞ」「相場も確定していないというのに」「蹴上インクライン」「とにかく、我の全力を投入するのが不可欠です」「だいたい、偽物も多く出回っている代物だ。博打にも程があろう」「箱があるなら本物だろう」「すみません、同じやつの徳利追加で2本ください」

「現在価格、10,000」
刻一刻と入札額が上がっていき、現在価格を読み上げるコンピューターの音声が響く。

「現在価格、35,800」

作戦会議が始まる。秘密指令E2号と極秘指令D51C号の前例もあり、話し合いはスムーズに進んだ。既に徳利が3本も空になっている。
終了まであと3日。行く末が予測不能なモノの出現に緊張が走る。

2日目の夜のことだった。しばらく変動の無かった現在価格の表示が更新された。
「現在価格、150,000」
「はやりそこまで行くか、これは...」

「絶対防衛ラインまで、あと2,000。1,500。1,000。突破!目標物、ドボソを突破しました!」
3日目、ドボソを突破。
「まぁまぁまぁ」「だいたい予想通り」
みな驚く様子もない。慣れである。

終了まで24時間を切ったところで、メフィラスが言った。
「クリアタイムステーションで敗北したんだ。今回は私が出る」
そう言うと、メフィラスは金額を入力し入札ボタンを押した。

「現在価格、270,000」

「メ、メフィラスさん!無茶ですよ!」

彼の目が光る。ここまで来たらやるしかない。

いよいよ終わりの時が近づく。

「残時間20分!カウントダウン開始!」「総員、大型の応札に備えてください!」「島田、狭山より入電。我、援助不能。我、援助不能」「大型の応札ってなんだよ」

メフィラスが言った。「館長、あれをくれないか」
「はい、"あれ"」
会議室の冷蔵庫からあれを取り出し、その冷たいアルミ缶を渡すと、彼は乱暴に開けてグイッといった。

「館長、ここからの言動は全て無視してください」
「いやそう言われても困るが」
「ランボー・怒りの入札!!!」
「もちつけ。マターリやろうや」(´ー`)つ旦
メフィラスにお茶を差し出す館長。

カウントダウン進行中。残り300秒を切った。依然、応札なし。

メフィラスが少し上乗せする。

カウントダウンがゼロに到達する。戦いは終わりを迎えた。

「館長、やりましたよ」
手を差し出すメフィラス。ここに館長との固い握手が結ばれた。

「では、ここで一曲。やってしも歌
メフィラスの十八番が会議室にこだました。

「第一種警戒態勢を解除。資料館、通常モードに戻ります」

「しかし、こんな事が立て続けに起きるとはな...」
「偶然です。恐ろしい偶然です。恐ろしい偶然が何度も重なっただけですよ」

資料館にいつもの日常が戻る。
安堵の声が響いたのも束の間、何かを感じ取ったザラブがメフィラスに声をかけた。

「話がある」

メフィラスとザラブは本部を後にし、二軒目へと消えていった。

それでは、しょうもない9割実話の前置きはここまでとして、紹介しよう。これが福岡地下鉄電車の姿だ!


過去長らくの間、プラレールファンの間で「天神地下鉄」と呼ばれていた福岡地下鉄電車
1981年の夏に福岡県の百貨店「井筒屋」で発売されたという話が伝わっているが、明確な資料は見つかっておらず、製品化の経緯などの詳細は不明。1981年7月26日に福岡市地下鉄1号線が開業しており、その記念として発売されたものであろう。
当時通常品で発売されていた「EC06 地下鉄電車」の帯を変え、福岡市地下鉄1000系に仕立てたものとなる。「地下鉄電車」のモデルである営団地下鉄6000系と「福岡地下鉄電車」の福岡市地下鉄1000系とでは外見上ほとんど似ていないが、そこはプラレール。ツッコミ無用。
箱は水色基調のEC箱。「EC10 急行電車」などに近い色合いだ。商品名はEC箱では唯一となる黄色文字となっている。
ちなみに、箱を通常の地下鉄電車のものとしたまま出回ったものもあるそうだ。


箱の蓋と裏面、上面、底面は他のEC箱と変わらない。黄色文字が青地に映える。


車両を見てみよう。「地下鉄電車」の帯を張り替えたものだが、非常扉上には開業時の終着駅「天神」を表示した方向幕がステッカーで貼られている。幕が赤地なのは実車通りだ。
実車の非常扉には窓があるが、プラレールでは営団地下鉄6000系の車体をそのまま使っているため、営団の「Sマーク」のモールドがそのまま残されており窓の表現はない。縦に並んだ前照灯と尾灯はステッカーで表現。運転士のイラストも「地下鉄電車」とは異なっており、差別化が図られている。


車両のサイドビュー。帯は白(上)・青(下)の組み合わせだが、この個体では後尾車の片側面の帯ステッカーが上下逆になっている。製品自体の希少性を考えると実にもったいないエラーだが、それもまたプラレールらしい。
時たま出回る個体は帯ステッカーがボロボロな事が多いが、幸いこれは箱付きという事もあり美品だ。乗務員扉で青帯が上がって白帯を遮るところも綺麗に残されている。


「福岡地下鉄電車」の特徴はなんと言っても帯の表現に尽きる。「ちかてつシルバーでんしゃ」→「地下鉄電車」ではモールドのみの表現で無塗装だった側面帯を、こちらではステッカーを貼って表現しているのが素晴らしい。
ただメッキ車体に細いステッカーを貼るのは少々難があるようで、現時点で現存が確認されている個体は全てと言っていいほど、帯がズレている車両がある。
これの反省なのか否か、6代目箱の「地下鉄電車」では側面帯のみ塗装表現となった。


台車は当然「地下鉄電車」と共通。「R/C」ユニット組み込みに伴う改修が入る前の、1979〜84年頃のものだ。


モーターボックスは普通の樹脂製。なんとどっこい未使用品だ。


前面のアップ。「地下鉄電車」同様、ステッカーに前後の区別はない。


帯のアップ。ライトケースの色は青の網点で表現され、その下に黄色の丸で前照灯、赤い丸で尾灯が印刷されている。網点とライトの下部を少し重ねることで、灯器の下にかかる影を表現しているようだ。印刷ズレのようにも思えるが、他の個体もこのようになっているので、恐らくこれが正規だろう。


いくら希少な品とは言え、あくまでも「地下鉄電車」のバリエーションでしかない「福岡地下鉄電車」。他に紹介するようなところも無いので、「ちかてつのえき」を使った写真を1枚載せて終わりにしようと思う。

福岡地下鉄電車の箱付き美品の鮮明な姿がこのように公開されるのは今回が初めてとなると思われる。ぜひ目に焼き付けて頂きたい。
前述したように、福岡地下鉄電車には「EC06 地下鉄電車」の箱をそのまま使った言わば中身だけを変えたものもあるらしい。中身のモノは同じとは言え、これもいつか収蔵したい逸品だ。
さらに、「ちかてつふくせんセット」の車両を福岡地下鉄電車に変えたご当地品が存在しているとの噂もある。駅名標が「←てんじん ちかてつのえき はかた→」となっている「ちかてつのえき」が発見されている以外、詳細は全くの不明である。 元のセットの発売は1976年、1981年当時から見ると一世代前の箱となる。当時の箱をそのまま流用したのか、あるいは旧動力時代中期の箱で新たに起こして発売されたのか、これも不明である。いつか世に出てくることを望むばかりだ。


資料館に収蔵する前に、ちょうど福岡に用があるという某氏にお願いして福岡市地下鉄1000系とツーショットを撮って頂いた。

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今回の記事作成、および収蔵するにあたり協力して頂いたプラレール資料館スタッフの方々に感謝致します。ありがとうございました。

令和5年11月吉日

[令和5年11月30日 追記]
収蔵から1ヶ月も経っていませんが、11月30日に1000系の後継となる4000系の導入が発表されました。「福岡地下鉄電車」のモデルも過去のものになる日が近づいています。

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